昼下がりの畦道
麻地の手提げ鞄を
しっかり押さえ
小走りに歩く私がいる。
豆腐屋の鳴らす「トーフー」
抱かれた幼子が
母親のうなじに
泣きながら
からめる両手。
陽射しの強さを
遮るように
鞄の楽譜が
顔を覗かせながら
メトロノームに
近づく
メトロノームの
振り子に合わせようと
鍵盤にはうように
慣れない指は
語りかける
幼い頃の忘れられない
メトロノームの音が
今日の私を
ここまで連れてきた。
出来上がった曲を聞いて
癒されもする
確かに。
けれど、自分が弾いた
ぎこちない音でも
想像以上に
癒される。
上手くなろうとする前に
鍵盤にひいた瞬間から
私の自由空間は
始まっている。
そして、
焦らない
自然体の私が
ここにいる。